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「なんだぁそんなこと?叶えてあげましょうね」
唐突に降ってくる声。
見上げれば社の屋根に美女が腰掛けていた。
「…なっ!誰だっあんた…!?」
「あらぁ君が呼んだじゃない。酷いわぁ」
美女はわざとらしく眉を寄せ身を捩る。そしてちょうど与作の顔面の高さに下ろした足先で、与作の鼻をつついた。
「神様よ♡」
彼女は、この山をはじめ、いくつかの山を守護する神だと名乗った。そして時々参詣者の願いを叶えているらしい。
「昔は男前だったらすぐ願いを叶えていたのよ」
身長は六尺以上でぇ、体がゴツゴツしててぇ、顔はそこまで重要じゃないんだけど、しいて言えば…
女神は延々と男の趣味について語る。
「君は昔だったらちょっと無理だったわね。筋肉つければ…いや…やっぱ顔がもう少しキリッとしなきゃダメね」
与作は頰が熱くなるのを感じた。自分の団子鼻と下がり眉を気にしていたからだ。
「でもそうゆうのは良くないって言われちゃって。最近は百日連続で来た子の願いを叶える、という決まりで願いを聞いてあげてるの。百日連続って意外と来ないのよね。昔はそれなりにいたんだけど…」
「じゃあおいらは…」
「そう。今日で百日目よ」
女神は身を少しかがめ、与作の頬を両手で包み込んだ。
「だから叶えてあげる。ううん。もう叶ってるわよ」
「…みんな…よくなったの…?」
「そうよ」
母と、兄弟の顔が頭を駆け巡った。たまらず女神の手を払い、与作は駆け出す。はやく!家に帰ってみんなの顔を見たい!与作は足を縺れさせながら、帰路を急いだ。
「せっかく叶えてあげたのに、お礼も言わないなんて」
失礼しちゃうわ、と与作の駆けていく後ろ姿を見ながら女神は呟く。
「ま、人間と神様の関係ってそういうもんなのよね」
女神は少し鼻を鳴らすと、姿を消した。
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