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与作は何度も転びながらも、社から続く階段を下りる。
だんだんと力が弱くなり、体もちいさくなってきたようだった。杖にすがる手も皮が骨に張り付いてきている。
やっと死ねる…。今頃母も長かった生に終わりを迎えているだろう。
思い残すことは何もない。ただできることなら最後に愛しい家族の___ひ孫の顔が見たかった。
視界が霞む中、やっと車が見えた。あの運転席には喜与志が座っている…。既に歩くことができなくなっていた与作は這いずりながらも、最後の力を振り絞り、運転席側のドアを開けた。
そこには誰もいなかった。
「きよし…」
与作はか細い声を上げながら、運転席をまさぐる。手に触れるのは何かの布の感触。
それは喜与志が着ていたズボンだった。ズボンだけではない。シャツも下着も、財布もシガーケースも指輪も、身につけていた品は全てそこにあった。ただ持ち主だけが消えていた。
「ぁぁあ…ぁあああああぁぁ…」
与作は喜与志の抜け殻をかき抱きながら、言葉にならない叫びをあげる。
___ああ、わしはまた願いを間違えてしまったのか。
そう悟った瞬間、与作の体は骨のみになり、地面に落ち砕けた。
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