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何でも100倍にしてくれる神
「今日もいろいろ上手くいかなかったなぁ……ハァ」
仕事帰り。
僕は夜の道を歩きながら深いため息をついた。
社会人二年目になってもいまだに失敗ばかり。
物覚えの良い後輩に抜かされてしまうのも時間の問題だ。
企画開発部ってことで自分なりに色々アイデアを考えてみたりはするものの、それを提言したことなんて一度も無い。
そんな中、ひとつ上の先輩、北川さんがいつも優しく接してくれるのが唯一の救いで、北川さんに会うためだけに出社してると言っても過言では無いぐらい。
仕事終わりだけでなく、休日にも何度か一緒に食事をするほど距離が縮んでいるのだが、彼女に告白する勇気も無ければ男としての自信も無い。
「なにもかもダメだなぁ……ハァ」
二回目のため息をついたその時。
目の前の地面からモクモクと煙が湧き出してきた。
「えっ? か、火事!?」
とっさにカバンの中へ手を入れ、中からペットボトルを取り出してキャップを開けようとした。
しかし、残念ながら中身は空っぽ。
僕は迷いながら上着を脱ぎ、それを両手で持って煙の出ている辺りに──。
「やめやめい! 火事じゃない! 神ぞよ!」
どこからとも無く……というか、煙の中から白いローブ姿の老人が現れた。
「……カミ? って、神様的な……?」
「的なじゃなくて、神様そのものじゃ。その名も〈100倍の神〉。どんなものでも何かひとつだけ100倍にしてしんぜよう」
「あっ……大丈夫です。すみません、もう帰らないと……」
これはまともに相手しちゃいけないタイプだと察し、僕は老人の横を通り抜けようとしたが、自称神様は驚くほど俊敏に動いて僕の行く手に立ちはだかった。
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