第一章

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 マスターは駐車場を見据えたまま、こんな台詞を吐いた。 「ハワイの自然か何だか知らないが、オーガニック、オーガニックってバカの一つ覚えみたいに」  困惑している僕のことなど全くお構いなしに刺々しい口調で続ける。 「オーガニック以外は食い物じゃない、毒だ、みたいな言い方するから、そういう料簡ならこっちも黙ってられないし」  マスターがチラッとバンダナ男の顔色を窺う。バンダナ男は大袈裟に頷いた。すると今度は二人揃って僕の顔をじっと見つめる。 「もしかしてアロハブリーズのことですか?」  訳の分からない会話にどう反応してよいのか分からず咄嗟に思い付きで口走ったのだが、このチョイスがよくなかったようだ。マスターの表情が邪鬼に豹変して射るような目で睨み付けてくるものだから僕は慌てて若干の嘘も交えて捕捉説明しなければならなかった。 「僕は全く関係ないですよ。今朝、偶々あの駐車場でトレーラーを見ただけで。アロハブリーズってロゴがあったから、それで・・・・」  男二人は渋々といった感じで頷いた。 「宗教ですよ、宗教。オーガニック教。ああいう連中が通りに巣食うようになってから商店街で生鮮食品扱っている店は軒並み客が激減で潰れたところもあるんですよ。それだけでも殺してやりたいくらいだけど・・・・」  マスターの表情が冷めて冷静だったので余計に恐ろしくて僕はこの場から逃げ出す方策を大慌てで考えていた。 「おまけに忌まわしい虫の保護活動にも加担してやがる。おかげでこっちは商売あがったりだ。あいつら・・・・絶対に許せない」  唸るように吐露しながら砂糖の入った陶器の壺を握り締め、それが今にも破壊されそうだったので僕は思わずマスターの手を掴んだ。彼は僕の顔を睨み付けた後すぐに我に返って恥ずかしそうに頭を下げた。
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