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マスターはバツの悪そうな顔で忙しなく注文を聞くと、さっさと店の中に戻っていった。それを見届けてからバンダナ男が椅子ごと移動して顔を近付けてきた。鼻孔に流れ込んできた体臭がユズルの部屋に漂っていた臭いと同じような気がして僕は思わず身震いしてしまった。
「というわけで馬酔木通り商店街には明確な対立軸が幾つもあって各陣営が鬩ぎ合っているんです」
男の話は僕の耳を素通りしていった。確かに体臭はそれらしいが体形はきゃしゃな痩せ型なので、この男とボディービルダーと二人の男がユズルの部屋に出入りしていたということか。
「俺はどの陣営にも属していない半端者だから冷静に商店街の全体像が見渡せるんですけどね。当事者たちは頭に血が上っているわけだから目隠しされた猛牛みたいなもんで危なくてしょうがない」
かまをかけてみようと思った。
「隣のマンションの管理人さんから聞いたんですけど、昨日の夏祭りで食中毒が発生したそうですね? 管理人さんの話だと大勢の人が今朝になって亡くなったとか・・・・」
男は汚物を踏んだような表情になった。
「よりによってあの男ですか。あいつの頭の中には妬みと自己嫌悪と欲求不満しかありませんから。あいつの話は八割が作り話です。でも食中毒の話は嘘じゃありませんよ。亡くなった人もいます」
この男は少なくとも管理人と面識がありそうだ。単刀直入にユズルのことを訊くべきか僕は迷っていた。
「警察も色々と調べていたみたいだけど、原因は未だ特定出来ていないみたいです。ここのマスターは当然、例の藪が元凶だって思ってるでしょうけど」
僕は気付かれない程度にフーッと息を吐いて腹を決めた。
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