第二章

3/13
269人が本棚に入れています
本棚に追加
/376ページ
 左田教授は僕が転送したニカーブの人々の儀式風の動画に興味を示し、何故か突然、レジ袋を頭からスッポリと被り、目の辺りを爪先で引き裂いてニカーブの体裁にすると、その切れ目からギョロ目で僕を見据えて話を始めた。 「馬酔木通りには豆田神社と興和寺がすぐ傍に在るでしょう? 昔から豆田神社の氏子と興和寺の檀家の間には深い因縁がありましてね。それにその他の宗教を加えた三つ巴の対立の構図が長く続いてきたわけです。何とか争いに発展しないようにと、その時代時代で工夫をしてきたんですがね」  左田教授によると馬酔木通りの夏祭りにも宗教抗争を回避する為の先人たちの知恵が詰まっているらしい。 「飾り神輿の存在感から豆田神社の夏祭りだと誤解している人が多いが、氏子も檀家も他の信者も関係なく地域の住人全員のお祭りなんですね。だから飾り神輿の担ぎ手も氏子と檀家とそれ以外の人々から等分に選ばれる決まりになっているのですよ」 「動画に登場する人々は地域と言うか商店街に対して恨みを持っているように見えますよね?」 「興味深いのはその点です。表面上は宗教間の調和がとれているように見えても実は歴史を詳しく調べていくと、どの時代にも陰湿な宗教抗争が存在していて、悲惨な出来事の言い伝えが沢山残っているんですよ」 「そういうのが現代に蘇った、とか?」  左田教授はレジ袋のニカーブを被りギョロ目で僕を見据えたまま頷いた。
/376ページ

最初のコメントを投稿しよう!