第二章

4/13
269人が本棚に入れています
本棚に追加
/376ページ
 ヒトのようなものに刃物が突き刺さるシーンを繰り返し再生しながら左田教授は呟くように言った。 「蘇ったと言うよりは、続いていると言った方がいいのかもしれない」 「これって、さすがに人間じゃないですよね?」  左田教授がなかなか答えてくれないので、緊張と恐怖のあまり気が付くと僕は不自然な薄ら笑いを浮かべていた。 「そう思いたいのは私も同じですが、相手が人形だとしたら、身体を強張らせて金縛り状態になってしまった人は、いささか過剰な反応と言わざるを得ませんね」 「でも、もし人間だったら血が・・・・」 「ミイラ状態なら幾ら刃物を突き刺しても血は出ません。古い文献に死者をミイラ状態にして祭ったり逆に藁人形代りに使ったりという記述がありますから」  僕は一瞬、呼吸の仕方も思い出せなくなって窒息しそうになった。 「脅かすつもりはないのですが、ヒトが沢山集まって長い時間一緒に暮らしていると必ず因習が生まれ、時にそれが不幸な出来事を誘発する。馬酔木通りには沢山の対立軸が存在していて複雑に絡み合っています。先程説明した宗教に加えて地区、職業、世代、貧富。そういった対立軸はたいていの町ではあまり顕在化しないものなのですが、馬酔木通りの場合、争い事にまで発展して、その度に新たなルールが作られ、それが時を経て因習となっていった歴史があるんです」  僕は唐突にバンダナ男の目―実際には抉り取られた後の目の痕跡―を思い出して息苦しくなり話題を変えた。 「飾り神輿の件なんですけど」  左田教授は被っていたレジ袋を脱ぎ捨てて薄い頭髪を念入りに整えた。
/376ページ

最初のコメントを投稿しよう!