第二章

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「十六年前に誰かが飾り神輿を壊したのかもしれません」  左田教授は世間話のように淡々と語ったが、国宝級は大袈裟でも五百年前に作られたとされる貴重なものだから、壊しました、御免なさい、では済まない大事の筈だ。 「あれほどの作品になると修復には気の遠くなるような時間と蟻地獄のような試行錯誤が必要になります。よく十六年で修復したと思いますよ。私なら全く別の手法を駆使してもっとスピーディーに出来たでしょうけど。まあ、頑張った方でしょう」  左田教授と馬酔木通りの関係についてはユズルから聞いたことがある。教授は飾り神輿の修復が縁で丹沢市の観光推進プロジェクトのアドバイザーとなり馬酔木通りの再開発を主導してきた。ユズルが参加していた起業フォーラムも左田教授がプロデュースした馬酔木通り周辺歴史探訪の旅パッケージから派生したものだ。その左田教授を差し置いて他の人間に飾り神輿の修復を依頼したというのはかなり大胆で常軌を逸した行為だろう。 「なぜ・・・・」  左田教授は僕の発言を制して切り出した。 「私に見られては困ることがあったのでしょうか? 私は修復する前に修復する箇所の周辺を徹底的に解析しますからね。そういうことをされるのが嫌だったんじゃないのかな?」  十六年前、飾り神輿に何かあったのは間違いなさそうだ。それがユズルの失踪と関係があるのかどうか分からないが、何故か身震いが止まらなかった。
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