第二章

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「豆田神社と敵対する勢力が象徴である飾り神輿を破壊しようとした・・・・そういう推理も成り立たないことはないんですが、ちょっと違う気がするんですよ。もっと何と言うのか、陰惨と言うか、そういうことが起きたんじゃないかと思うんです」  僕は恐ろしくてもうそれ以上先を聞きたくなかったが、厄介なことに、もう一人の僕が教授の因縁話に興味津々なのだ。 「ここだけの話なんですがね。以前、飾り神輿をCTスキャンしたときに内部に人骨らしきものが見つかったんです。取り出して解析するわけにはいかないので真偽のほどは定かではないのですが。もしあれが人骨だったとしたら数百年前に誰かが神輿の内部に納めたということなのでしょう。神事には時に闇の部分があるのです」 「さすがにもう時効でしょうけど・・・・」  ジョークのつもりだったが、頬が引き攣り声も震えていて、全く笑えるような空気ではなかった。 「そういう意味で馬酔木通りは私にとって格好の研究対象なわけです。あまり表に出てこない歴史の闇の部分が、琥珀に封印された太古の生物の如く、そのままの形で保存されているんですから」  左田教授は目を爛々と輝かせて唸り声のような吐息を漏らした。僕はこの人物と行動を共にしたら藪蛇になりそうな予感がしていた。
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