第二章

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 ずっと感じてきたことだが、実像よりもかなり盛った僕でないとユズルのパートナーとして相応しくないのだ。ユズルは僕の虚像を見ていたのか、それともまだ開花していない潜在能力を発見してくれていたのか、いずれにしても、起業フォーラムの面々が僕のことを羨望の眼差しで見ているのはユズルの過大評価と誇大広告のせいだろう。しかし今は誤解を解くことより状況の共有が優先だ。 「実は今朝からずっとユズル、上月ユズルと連絡が取れないんです。マンションの部屋にも居ませんし、何かご存知だったら・・・・」  男二人、女三人が顔を見合わせてから一斉に左田教授の表情を窺う。左田教授が大きく頷いて見せると、彼らは会議用テーブル一杯に馬酔木通りの巨大な地図を広げた。店舗、住宅、マンション、駐車場などがこと細かく色分けされている。 「馬酔木通り周辺の勢力地図です」    ボディービルダー体格の男はそう言って、ユズルのマンションを指差した。地図上に色の塗られていない区画があって、ユズルのマンションもその中に含まれていた。 「ユズルさんはどの勢力にも未だ属していなかったんです。それなのに、あまりにもスープが絶品だったものだから、つい豆田神社に屋台を出そうなんて盛り上がってしまって。すみません。安易過ぎました。猛省しています・・・・」  ボディービルダー体格の彼が深々と頭を下げる。他の四人もそれに習った。一瞬、頭の中がエアーポケットのようになって僕はどう反応すればよいのか分からなかった。
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