第二章

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 冗談ですよ、と前言撤回して欲しかったのだが、五人の男女も左田教授も重苦しい表情で押し黙ったままだ。僕は思わずテーブルの大地図を力一杯叩いた。 「ちょっと、とにかく頭を冷やしましょうよ。人里離れた山奥の村ならまだしも、こんな街中で生贄とかあり得ないでしょう? 祭りの度に人が消えてるなら、それこそ此の市役所とか警察署とか大騒ぎしている筈だし」  僕は左田教授に向かって頭を大袈裟に振って見せた。 「あり得ない、あり得ない・・・・絶対、あり得ない」 「おっやる通りで、我々が此処にオフィスを設けてから十六年間、夏祭りで誰かが失踪したなんて話は聞いたことがありません」 「ほら、やっぱりそうでしょう? 無理やり怪奇的な事件に結び付けるの、止めましょうよ」  僕は左田教授に向かって強い口調で諭した。 「但し、この十六年間は正式な夏祭りじゃなく、町内会主催の寄せ集めって感じで実施してきた擬きです。従って、飾り神輿も登場しなかったし興和寺も参加していない」  左田教授は同情するような目で僕を見てこう続けた。 「昨日は十六年振りの正式な夏祭りだったんです」 「じゃあ、十六年前に遡って調べたら祭りの度に誰か失踪していると言うんですか?」 「未だ調べていませんが、おそらく・・・・」 「だったら・・・・ユズルはこのフォーラムに所属していたんでしょう? 百歩譲ってユズルが馬酔木通りの勢力争いに巻き込まれそうだったのなら、なぜあなたたちが守ってやれなかったんです? 何処にも属していなかった、なんて突き放すような言い方をして、無責任じゃないですか?」  僕は一気にまくし立てたが、頭が混乱していてどんなロジックで話したのか全く把握できていなかった。ただ五人と左田教授の顔を順に睨み付けることくらいしか思い付かなかったのだ。
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