プロローグ

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 夏祭りの翌日はいつもよりも早く目が覚めた。平生の起き抜けと違って意識はハッキリしている。サイドテーブルの携帯電話を手繰り寄せて受信メールを確認したが、ユズルからのメールは届いていなかった。結果の良し悪しに関わらずメールで僕に報告する約束だったので不穏な前兆のようなものを感じて震えた。  ユズルの携帯電話は圏外になっている。何度メールを送っても無しの飛礫だ。身体中の汗腺が開いて冷たい汗がしみ出し、悪い予感や忌まわしい妄想が頭の中に沸き上がってくる。僕は居ても立ってもいられなくなり着の身着のままで外へ飛び出した。  空は未だ薄暗くて停留所までの道程も閑散としていた。始発のバスが姿を現すまでにそうとうな時間が経過した筈なのに待ちくたびれたという感覚は全く無かった。  路線バスは千龍川に掛かる豆苗橋を渡って丹沢市内に入る。豆苗橋に背洗い橋という別名があるのは昔の人たちがこの橋から龍神様の背中を洗って雨乞いしたという言い伝えがあるからだ。ちなみに豆田神社の飾り神輿は龍神の姿を模っている。  豆田神社の鳥居が見えたところで降車ボタンを押すと、それを見ていたかのようなタイミングでアナウンスが流れた。 「次は馬酔木通りアーケード前に停まります」  僕はハッとして窓に近付き馬酔木通りの方を覗き込んだ。商店街の入り口に警察車両が停められていて周辺に警察官が屯していたからだ。
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