第一章

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 不審者として尋問されるのだろうと僕は予想して身構えていたのだが、警官たちは僕を睨み付けるだけで一向に質問してこない。何があったのか知らないが、無精髭にジャージという井出達の男が始発の路線バスから降りて真っ直ぐに店の開いていない商店街を目指したのだから、それだけでも不審尋問するのに十分だと思うのだが。  そのうちに一人の警官が宙を見据えて手を叩き始めた。残りの警官も徐に空を見上げて手を叩き始める。 「あの・・・・」と、僕は面食らうやら呆れるやら、で彼らに声を掛けた。  警官たちは飛び交う蚊と一心不乱に格闘している。 「用が無いんなら、もう行ってもいいですか?」  完全に黙殺されたので、僕は彼らの様子を窺いながら、ゆっくりと一歩踏み出した。すると警官三人が一斉に僕の前に立ちはだかったのだ。六つの血走った眼が僕のことを睨み付けている。 「一体、何なんですか? 何とか言ってくださいよ」  相変わらず黙ったまま僕のことを見据えている。もしかして余所者を馬酔木通りに踏み入らせたくないということだろうか。
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