第一章

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 Tシャツ姿の老人たちの清掃というのは、馬酔木通りのずっと奥まで続いている鱗状の舗装を端から端まで、先ず掃除機でゴミを吸い取った後に高圧洗浄機で表面の汚れを吹き飛ばし、更に洗剤を噴霧して布で綺麗に拭き取る念の入れようだ。屋内ならまだ分かるが、大勢の人が土足で踏んでいくところを、そこまでするのは明らかに過剰な執着で、清掃活動の裏に在る何らかの主義主張を誰かに向けて訴えているような気がした。  彼らの清掃活動を半ば呆れて眺めていると、ニカーブの人と入れ替わるように馬酔木通りの奥からゴロゴロという耳障りな音が聴こえてきた。  こちらに向かって来るのはスケートボードに乗った女性だった。商店街の道は平坦なので腰を捻ってボードを蛇行させながらゆっくりと近付いてくる。硬いウォールと鱗の舗装が喧嘩する金属質の大きな音でラジオ体操の旋律が掻き消された。Tシャツ姿の老女がラジカセに駆け寄り音量を上げたが、スケートボードの女性はヘッドホンをしていて涼しい顔のまま清掃活動のど真ん中を中央突破していく。  スケートボードの女性が馬酔木通りのアーケードを抜けようとしたそのときだった。Tシャツ姿の何人かが彼女に向けて高圧洗浄機の噴水を浴びせたのだ。 「あぁ、あ!」と、僕は思わず叫んだ。  四方から高圧の噴水をまともに喰らって女性はバランスを崩しボードを踏み外して鱗の舗装に叩き付けられた。  ごく普通に見える老人たちの短絡的で過激な行動に僕は唖然として固まってしまったのだが、それ以上に信じられなかったのは警官三人が見て見ぬ振りで老人たちの行為を黙認していることだった。
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