第二章

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第二章

 パッチワーク柄のイームズ椅子に結わえ付けられているのは、ヒトの輪郭を忠実に模ってはいるが、ヒトではないような気がした。  頭の天辺から足の先まで隙間なくギッシリと紙片が貼り付けられていて、其処に無数の刃物が突き刺さっている。貼り付けられた紙には店名らしきものやロゴや家紋のようなデザインが印刷されているので商店街の店舗の包装紙だろう。  つまり商店街の包装紙を貼ってミイラのようになったヒトらしきものが椅子に縛り付けられていて、包丁やナイフや硝子片がこれでもかというくらい突き刺さっているという映像だ。ヒトではなく藁人形の類だと感じたのは僕の希望的観測かもしれないが、実際に血痕の類は何処にも見当たらなかった。  ニカーブの人々は順番に椅子の正面に進み出て、手に持った刃物を頭上高く振り上げ、ミイラを目掛けて力一杯振り下ろし、刃物が深く刺さった場所をしばらく凝視してから次の人に場所を譲る。中には椅子の正面に進み出た途端に固まってしまって刃物を振り上げられない人もいるが、四方から湧き上がる歓声に煽られて最後には刃物を突き刺す。  撮影している本人―おそらくユズルだろう―の順番になって真正面に不気味な姿のそれが大写しになったところで動画は終了した。
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