満点取ったの、だーれだ

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 あの日以来、ミノは学校で歌わない。だから音楽の成績だけが悪かった。それは小学校を卒業して中学に上がっても、高校に入っても変わらなかった。クラスメイトは彼を極度の音痴だと判断し、教師達も諦めたのか、いつのまにか叱らなくなった。  そして、今日もミノは歌わない。クラス中を爆笑の渦に巻き込んで、芸人のように讃えられた。  けれど、俺だけは知っている。未だに彼が歌を捨てていないことを。ミノは部活もせずにバイト生活に明け暮れている。他の友達には「出会いを探してんだよ」なんて不純な動機を語っていたが、本当はそうじゃない。稼ぎは全てボイストレーナーに支払っている。彼は家族に黙って、自分の金で歌を習っているのだ。今でも偶に、二人きりの時は歌ってくれる。俺の部屋や、隣町のカラオケ屋で。最近は更に磨きがかかり、声の伸びが良くなった。  だからこそ、俺は悔しくて堪らない。ここにいる誰もがミノの歌声を知らずに彼を笑っている事も、彼自身が才能を隠している事も。  こんな風に潜めなきゃいけないのは、なんでだ? 俺は苦しくて堪らない。ミノはインターネットに歌を載せたり、オーディションを受けたりしていない。もし実行すれば、一瞬で天まで昇り詰めるだろう。だが、彼はやらなかった。  きっと、自信が無いのだ。実力に、では無い。受け入れられる、応援される自信と勇気が。  どれほど周囲から褒められたって、実の親に、血の繋がった家族に否定されたら、そこで全てが潰える。その恐怖と衝撃が如何ほどのものなのか、俺は間近で知ってしまった。  だからこそ、俺はどうにかしたかった。彼に『舞台』を、『百点満点』を返してやりたかった。  あの日、ミノの母親に殴りかかってでも約束を守らせていたら、あの言葉を撤回させ、謝罪させられていたら。音楽の先生に、担任に、事情を説明して助けを求めていたら。俺が動いたら、何かが変わったかもしれないのに! そんな後悔が、いつまでも俺の中で蠢いていた。周囲から「満点」だと褒められるたびに、小学二年生の俺が泣きながら首を振るのだ。「違う、違う」と…。
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