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満点取ったの、だーれだ
俺は負け知らずだ。運動会では一等賞、テストはいつでも学年トップ。高校一年のバレンタインでは、下駄箱がチョコでパンクした。誰でも口を揃えて言うんだ、「百点満点の人生だね」と。
けれども俺は知っていた。『本物の満点』って奴を。それは俺のような者でなく、選ばれた存在に与えられたギフトだ。美しく輝く才能を、俺はずっとこの耳で聴き、心臓で受け止めてきた。だからこそ現状が悲しくて、過去が悔しくて堪らない。
今日の六限の音楽は、歌のテストだった。ここ一月ほど習ってきた課題曲を、イタリア語か日本語訳で独唱する。勿論イタリア語で歌った方が評価は高い。俺は発音も音程も完璧にやりきって、教師からは「百点ですね」と評された。そうさ、俺は完璧に歌った。ただ間違えなかっただけなのに、人はそれを褒め称える。
「次は…アイダさん、ですね」
先ほどとは異なり、教師の声はローテーションだ。それと反比例して、音楽室の空気は浮かれた。クラスメイトは笑いを押し殺している。俺以外の全員が。
「出席番号二、アイダミノルが歌います」
間延びした声で宣言したミノは、ヘラヘラと笑っている。前奏が流れ出すと、クラスメイト達は期待の眼差しで彼を見た。
「おお、どうか顔を背けず
聴いておくれ、我が歌を
この高まり
この愛を
嘘と言わせないでおくれ」
情熱的な歌詞を、これでもかと平らに棒読みするだけの『スピーチ』。彼は歌のテストの度に必ずこれを行う。筆記もリコーダーも出来る癖に、歌だけは真面目に取り組まない。教師は頭を、クラスメイトは腹を抱えるひとときだ。
このスピーチが始まったのは、俺たちが小学生の時。引き金となった言葉も、あの時のミノの表情も、俺は苦しい位に覚えている。そして、それを覆せなかった自身の弱さも。
俺の心に刻まれた、後悔の記憶が蘇る。
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