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『水子汐里の学園探究ノート』より
一年二組、空島百恵。人は彼女のことをこう呼ぶ。
「ひゃくえ」あるいは「イーサン・ハンドレット」
「ひゃくえ」は比較的蔑称、「イーサン・ハンドレット」は比較的敬称とされている。
その由来は彼女の運営する学園内サイト『仕事人ももえ(百円均一)』のアドレスにある。
http://100e.co.jp
入学早々、彼女はこのリンクを全校生徒の携帯に送りつけた。出所のわかない怪しげなリンクを、初めは誰も開こうとしなかった。だが思い出して欲しい。この学校に通うのは変わった人間ばかりである。パンドラの箱が開かれるのに、そう長くはかからなかった。
それからは早かった。どんな問題も百円で解決してくれるという仕事人ももえの噂は瞬く間に広がり、彼女のもとには依頼が殺到した。
実際に彼女の手腕を体験した依頼人Aは語る。
「いやー、ほんとすごくてー。超カッケーっつうかー、みんな陰で『ひゃくえ』とか言ってちょっとバカにしてるけどーマジ『百恵様!』って感じー」
また、依頼人Bはこう語る。
「信じられません。絶対無理だと思ったのに。彼女はもっと讃えられるべきだと思います。なんせ百円ですからね」
これらは数あるうちのほんの一部であり、彼女への感謝の声は数えきれないほどであった。今やももえは校内で絶大な支持を得ているのだ。
だがどんなに饒舌な依頼人も、ある話題に対してはみな揃って口をつぐんでしまうのだった。
それは、彼女が依頼を解決する方法についてだ。
依頼人A~Zの言い分を一斉に見てみよう。
「いや、それはちょっと……どうやったかは見せてくれないし、教えてくれないし、知らないうちに終わってるし。そもそも、空島さんのおかげっていうのは言っちゃいけないことになってて……」
それでも語るということが変人たる所以か。この問題に関しては空島百恵本人についても同じで、彼女に「あなたが仕事人ももえでしょ?」と聞いたところでつれない返事しか返ってこないのは多くの人間が体験済みである。間違いなく彼女なのだが……。
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