紅白饅頭

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注射針の痛みにさえ顔を歪めながら医務室を出ると、とっくに後半が始まっていた。しばらく相手の攻勢が続くも、青のユニフォームが巧みにいなしてゆく。 そして、日本が右からのコーナーキックを取った。この大会、日本のコーナーキックは全て近いサイドに速いボールを送っており相手は長身の選手がボールのある方に寄っていく。 高々と上がったボールがそれらの選手の頭上を越えた。遠いサイドからヘディングで折り返したボールに日本の選手が足を出す。決定的な3点目だった。 試合前の分析では我慢比べになるだろうから先に崩されないこと、そしてそれまでに使ってなかったパターンのセットプレーを用意しておこうという二つの決まりごとがあった。 ファーサイドで落としてニアで決める、という形は改源の発案である。そして本来なら、最後に決めた選手の位置に改源がいるはずであった。 せめて一矢報いようと必死の攻めを続ける相手に防戦一方の日本。だがアップゾーンに立つ改源は不思議と怖さを感じていない。 左からのクロスを日本が頭でクリア。だがそれを拾われる。 「上がれ!」 改源が叫ぶ。ゴール前を固めていた青いユニフォームが一斉に前進した。 相手選手三人をオフサイドポジションに追いやるオフサイドトラップ。この時間帯にこれが成功すると相手の足が動きは止まることを改源は経験上よく知っていた。 間接フリーキックの前に、日本が最後の交替選手を送り出した。改源は出番のなくなった控え選手の一人一人に声をかけ、最後にベンチに腰を下ろす。 足が痛むわけでもないのに、目尻が潤んだ。
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