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「カピはん、おめでとうございます」
カピタンはポルトガル語読みでキャプテン、ハイーニャでも主将をつとめる改源のニックネームである。
そして花束の次に、杏木が手渡したのは細長い菓子箱だった。そういえば杏木の実家が老舗の和菓子屋を営んでいるのを思い出した。
「開けてもいい?」
返事を聞く前にふたを取ると、子供の顔ほどもあるかと思われる大きなお饅頭が、赤と白の一つずつ入っていた。
「紅白饅頭か」
特に謂れのあるお菓子ではない。ただ赤と白の彩りが慶事に相応しいとして重宝される。急ごしらえなりにいろいろ考えてくれたのが伝わった。
なんだか照れるほどの晴れがましさだが、仮にも同じ赤と白の日の丸を戴いて戦う選ばれた人間なのだ。それくらいでいいのかもしれない。
あの大会、たとえ自分のサッカー人生がここで終わっても勝たなくてはいけない。改源のみならず、あのチームの選手やスタッフ全員がそう思っていた。
けどそれは間違いだったと、今なら確信を持って言えた。
あの場所はそんな悲壮感を漂わせているべきものではない。もっとキラキラとして、心底サッカーを楽しんでいなければ、後から続く者たちにここにおいでと言えない。
そのためにも、自分はもう少し頑張らなければならない。金髪に染めた髪と同じ色のメダルを目指して。
「春風、藤原」
菅原がデジタルカメラを構え、一枚くれとせがむ。改源が杏木に耳打ちし、うなずいた杏木が箱から饅頭を取り出す。
「はい、チーズ」
二人がが顔をくっつけ、それぞれ饅頭を口にくわえる。唇にほんのりとしたぬくもりがあり、鼻を酒粕の淡い匂いが通り抜けた。
改源が右の人差し指をまっすぐに立てた。
100、と見えるように。
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