紅白饅頭

5/14
前へ
/14ページ
次へ
朝起きるとトイレで座薬を入れるのが日課になった。相部屋なのでルームメートを起こさぬよう息を殺してベッドを抜け出し、冷蔵庫の座薬に手を伸ばす。ひんやりとした異物が肛門に入ってくる感覚は何度やっても慣れるものではなかった。 それが終わると、朝日が射すベッドの上で左足をテーピングする。本来テープで固定して効き目があるのは関節の痛みである。足の甲の骨折にどれだけ役立つかわからなかったが、できることはなんでもした。 そして、スパイクである。スパイクと足の裏に入れるソールを毎日取り替えた。普段なら穴が空くまで使っていたが、少しでも減っているとそれだけで足への負担が増す。もったいないなぁとは思いながら、それでも交換するしかなかった。 一歩部屋を出ると、まるで女優のように演技をするのだ。役名はいつもと変わらない自分自身。何を食べても味がしないのにおいしいと笑い、ふさぎこみたいのに自分から話題を振り、左足に痛みがあっても何でもない顔をする。 一日が終わる頃にはどっと疲れが出た。それで眠れてしまえばどんなに楽だったか。しかし座薬で散らしていた痛みが出るのはこの時間なのだ。 うとうとしだしてもすぐに針金を突き刺すような感覚に起こされ、眠ったか眠らないかよくわからないような時間が続いた末に朝を迎えるのだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加