紅白饅頭

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国立競技場のスタンドは、見たこともないような大観衆だった。次から次へと青いユニフォームを着た人が押し寄せ、鮮やかな群青に染まっていた。女子サッカーの、しかも有料の試合にこれだけの人が来るのは日本では考えられないことだった。 いくら頑張っても気にも留められなかった自分たちが、こんな中で試合ができる日が来るなんて。そしてその中に自分がいないなんて。  しかし同じようにスタンドを見上げるチームメートの様子に、そんな感傷はあっさり捨てるしかなかった。明らかにプレッシャーを受け、一様に表情がこわばっている。無理もない、こんなに多くの声援を受けて試合をするなんてこと自体、全く経験のない選手ばかりだったのだ。 「見てごらん、あの青を」  はるか下から見上げれば青い群れにしか見えないが、よくよく見ればそれは一人一人の人影である。 「あの人たちが、一生忘れられないような夜にしてやろうよ」  次いで向かって右のゴールマウスを指差した。 「あそこにボールをぶちこむだけだ。そんなに難しいことじゃない」 試合は終始、日本のペースで進んだ。日本の奇襲作戦に相手が対応しきれないうちにまず1点。さらに相手の考えられないミスでもう1点。2-0という、戦前の予想からは望めないようなスコアでハーフタイムを迎えた。 「改源」 アップを終えて引き上げると、監督に呼ばれた。 「麻酔を打ってくれ。後半、使うかもしれん」 えらいことになったと思った。
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