紅白饅頭

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「100試合出場だって」 第四審判に提出する交代用紙を片手に、菅原真澄がアフロヘアをかき上げた。現役時代はさらさらのベリーショートだったので、どんな心境の変化かと尋ねそこなったままもう半年が過ぎていた。 「おやおや、もうそんなになるのか」 まるで他人事のようにつぶやいた改源春風もまた、背中にかかるロングヘアを金髪に染めたばかりだった。自分に気合いを入れるつもりで生まれて初めて髪の色をいじってみたが、あまりに頭髪が痛むもので大変に後悔した。 痛いと言えば三ヶ月前、左足にすさまじい痛みが走った時は、この世が終わるかと思った。急激な反転を繰り返すサッカー選手の職業病とも呼ぶべきジョーンズ骨折ではあったが、あまりにもタイミングが悪すぎた。 改源のサッカー人生にとって、そしてこの国の女子サッカーにとって間違いなく最も重要となる試合が目前に控えていたのだ。 来年で三十路になる改源だったが、それまでケガらしいケガとは無縁のサッカー人生を送れてきた。中学生で当時のLリーグ、高校生で日本代表デビュー、ワールドカップ、オリンピック、アメリカプロリーグと戦い続けてこれたのは丈夫な体のお陰でもあった。 それが、切った張ったの大一番を前にして。いるなんて思ったこともない神様を呪うしかなかった。
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