百円お嬢さん

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「そうね……。まず、百円玉って、直径何ミリくらいなのかしら?」  少女が鉛筆を持ちながら言った。 「は? 直径?」 「一円玉は直径2センチよね」 「そうだっけ……? もっと小さそうだけど」 「何にも知らないのね。一円玉は直径2センチ。重さは1グラム。厚みは1.5ミリ。アルミニウム100パーセント。それくらい常識じゃない? ま、いいわ。一円玉が2センチで、次に小さいのが五十円。その次は五円で、次が百円、それから十円、五百円よね」  百円玉って、十円玉より小さいんだっけ。俺がそんな風に思っているのを、まるで見透かしたように少女は鼻で笑い、それから筆箱から定規を出して見つめた。 「1ミリずつくらい大きくなるのかしら? だとすると百円玉は直径23ミリ……。まあ、もう少し小さいような気もするけど、ダトウなとこね」  俺はこっそりスマホでググッた。百円玉、直径……。22.6ミリ……! 少女はメモ帳に「Φ23mm?」と書き記し、それから更に、俺の度肝を抜いた。 「円周は……、72.22ミリ」  少女はそう言って数字を書き加えた。彼女はスマホも電卓も持っていないどころか、余計な数字すら書いていない。まさか、23×3.14とか暗算したのか? 「さて、ここからが難しいけど……、百円玉のギザギザ、さっきチラッと見た感じでも、ギザギザの幅は、1ミリはないわね。0.5ミリから1ミリの間のどこか。するとギザギザの本数は……」  俺は寒気を覚え始めていた。 「73本から144本! ……72通りか。なぁんだ。これじゃあ幅がありすぎるわね」  助かった。けど俺だったら、その73と144から72を導くのさえ怪しい。1引くんだっけ? 足すんだっけ?  と、ここで少女は俺の顔をのぞきこんだ。 「こんな勝負を仕掛けるくらいだから、ちょうど100本とか、野球ボールの縫い目と同じく108ってことはないでしょうけど、それでも70通り……。お兄さんは既に知ってるのよね? 何かヒントはないかしら?」  俺はさっき見た答えの数を思い浮かべた。 「駄目だ。ノーヒント」 「……素数かしら?」 「ッ………、ノーヒント……!」 「キャハッ! 良かったわ! 素数は知ってるのね! 1とその数自身でしか割り切れない数!」  そのくらいは俺でも知ってる。が、俺には勇気を与えてくれないらしい。 「頭に思い浮かべたわよね? それから私が素数って言ったら、少し、けど長めに、考えたわよね! ねえ、割り切れた? 7で割り切れた? 全ての桁の数字を足して、それを3で割り切れるなら、元の数も3で割り切れるのよ? 割り切れた?」 「………うるさい! 答えねえよ!」 「と、言いつつ、また少し、けど長めに、考えてる。これで大体決まりね。ギザギザの数は素数。73から144までの素数は、73、79、83、……」  俺は悪魔でも相手にしてるのか? このままじゃ当てられるかもしれない。何とか手を打たなければ……。俺はスマホでググッた。何かないか……?
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