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世界はあと100日で滅ぶ
どうやら世界はあと100日で滅ぶらしい。
いつもどおり僕が中学の制服に着替えている時、テレビが「あと100日後地球に隕石が衝突して人類は絶滅します」なんてニュースを流し始めた。
僕も母さんも父さんも「何これ?」って顔を見合わせた。何回もテレビのチャンネルを変えたけど、どれも総理大臣が辛そうな顔で「科学的観測に基づいた結論であり、国境を越え力を合わせ、力の限り尽くしましたが…」なんて言っていた。
「なにこれ?」
「さあ…」
母さんの気のない返事が返ってくる。ぼーっと5分くらいテレビを見続けても記者のシャッター音とよくわからない隕石の説明があるだけだった。
父さんも聞きたがっていたけれど、電車の時間に間に合わないって慌てて出かけてしまった。確かに100日後の地球がどうなるにしろ、電車の時刻表は待ってくれないだろう。それは中学生の僕も同じだ。
「もうこんな時間じゃない!早く着替えなさい!遅刻するわよ!」
「世界が滅ぶって言うのに?」
「そんなもん100日後にならないと分からないでしょ!」
そんなもんなのかなあ、と思いながら僕は制服に着替えて家を出た。
家を出てすぐの曲がり角で、髪が背中ほどまで伸びた女の子が僕を待っていた。
艶のある真っ黒な髪と長いまつげとぱっちりした目が可愛いあの子は僕の恋人でもないのにいつも僕のことを待っていてくれる。
誇らしいような恥ずかしいような気持ちを抱えて僕は声をかける。
「おはよう。陽菜ちゃ…笠井さん」
「おはよう。颯太くん。陽菜ちゃんでいいのに」
陽菜ちゃんはふわりと笑う。僕らは隣り合って歩き始めた。
「もう子どもじゃないんだから陽菜ちゃんなんて呼べないよ」
「私にとってはずっと颯太くんだし」
「一つ先輩だし」
「先輩を敬うのは当然ね!」
陽菜ちゃんは大きく頷く。陽菜ちゃんは…笠井陽菜さんは僕の幼馴染だ。家が真向かいで、僕が幼稚園に入る前から一緒に遊んで育った。そして僕より1年早く幼稚園に入り、今は僕の1つ上の先輩として同じ中学に通っている。
中学に入って陽菜ちゃんはお姉さんぶって女の子らしい振る舞いを意識し始めたけど、僕にとってはずっと『陽菜ちゃん』だ。さすがに今は「笠井さん」って呼んでる。恥ずかしいから。
「それに彼氏さんの怒られるから…」
「怒らないよ。私の彼氏優しいもん」
その発言に僕は黙った。陽菜ちゃんの彼氏は僕には「人の彼女になに馴れ馴れしくしてんの?」って通りすがりに詰め寄ってくるような人だ。僕は好きにはなれない。
でも陽菜ちゃんには優しいのであれば、僕は何も言えない。
「それより朝のニュース見た?隕石がどうのって」
「見た!あれなんだろうね?朝の新しいドラマ番組かなって思ったら他の局もやってるんだもん」
「そうなんだよね。新しい番組にしては首相似過ぎてたよね…?本当に隕石が振ってくるのかな?」
「まっさかー」
陽菜ちゃんが笑う。ゆったりとした笑い方は大人びている。
「だよねえ」
隕石の話はそれで終わって、僕たちは学校についた。
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