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その庭園の管理人「人間」につき
あの日私は「神隠し」というものにあった。
見渡せば一面の薔薇。
上に沿わせた蔓薔薇に地面には屹立性の薔薇。
その隙間を埋めるように芝桜やクレマチスに彼岸花。
桔梗や少し遠目には藤の花や桜。
決して同じ時期には揃わないさまざまな花が揃うこの庭園の管理が私の仕事。
赤、青、紫、桜色、白。
グラデーションになるように配置してあるその花は、私がこの地に来た際に頼んで用意してもらったものばかり。
どれも私の好きな花。
同時期に花盛りを迎え、決して枯れることのないこの光景が、ここが違う世界だと認識させる。
庭園の中程にあるガゼボに座りながら、この光景を見ていた私は全て開花した美しい光景と、違う世界に来たという実感を両方感じ、ため息をつきながらとなりに座る男の肩に頭を乗せた。
大好きだった祖父の若かりし頃にそっくりな男に孫が甘えるように。
こうすると男は黙って優しく髪を梳いてくれる。
「宵月、疲れたのかい?部屋で休むとするか。」
「違う。我ながらいい仕事したなって浸ってたところ。おじいちゃんは黙って肩を貸してて。」
「これ、おじいちゃんなどというのではない。私はそなたの祖父ではないのだからな。月と呼びなさいと言っているだろうに。」
言葉ではたしなめながら、彼は髪を梳く手を止めない。
どこまでも私を甘やかしてくれるのだ。
私を「神隠し」た、この神様は。
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