悪癖とはよくない習性というだけあって自分では治せない

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目を開けると最近やっと見慣れた天井だった。 月の肩を借りていたところまでは覚えていたので、あのまま寝入ってしまった私を布団まで運んでくれたのだろう。 甘やかされているなと思うと同時に、今まで人に気を許したことがなかった私が人の肩で寝入るなど今まででは考えられないなと思う。 ここでの生活を始めてどれほど経ているのかは曖昧だ。 感覚的には一月は経っているかと思うのだけど、カレンダーや時計がない生活はすっかり私に時間の感覚を失わさせていた。 「起きたか?」 ふと頭上から声がする。 まだ緩々と眠りの淵にいた頭が少しずつ覚醒していく。 「運んでくれてありがとう。ずっとここにいたの?」 「衣を離してもらえないものでな。」 口元を袖で隠してくつくつと笑う男の方を見ると、私の手がしっかりと彼の着物を握っていた。 「ごめんなさい。」 「なにを謝ることがある?まだ甘えたい盛りだろうに。よいよい。」 どれくらいの時間が経っていたかはわからないけど、同じ姿勢でいるのは辛かったのではないかと思って謝ったのに、彼はいつものように私を子供扱いして寝起きで乱れた髪を梳いて直してくれる。 20歳を過ぎて数年は経っているのにもかかわらず、彼にとってはいつまでも私は子供らしい。 甘やかされることに慣れていない私はいつも彼の対応に戸惑ってしまうけど、最近では触れられる事に慣れきってしまっている。 それは毒のようにゆっくりと私の中に浸透していく。 「月は私を甘やかし過ぎだと思う。もう子供じゃないし、これ以上甘やかされたら1人で生きていくのが辛くなる。」 思い出すのは誰もいない家と誰ともうまくいかない会社との往復の日々。 このままではあの生活には戻れなくなってしまう。 まぁ、神隠しにあっておそらく一月は経っているとしたら、無駄欠勤でクビになっているだろうが。 「よいよい、宵月はここで庭仕事があるではないか。私の庭を手入れしなくてはいけないのだから私のそばを離れる事はない。」 「そっか。一緒にいてくれるならいいかな。」 月と話していると考えることがだんだんと億劫になっていく。 毎日気を張っていた生活が噓のように彼の言葉はすんなりと私の中に入り込んでくる。 「まだ宵の時間。もう一眠りするといい。」 そっと瞳の上に手を置かれた時には、私はすっかりと深い眠りについていた。
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