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「では早速、簡単に打ち合わせをしよう。すでに江留くんには手を動かしてもらっているので、改めて東くんと石村くんへの共有だ」  以前から江留さんをオフィスで見かけていた理由は、すでに業務に入っていたからだったのか。 「本来であれば編集担当に専門家を招いて制作していくところだが、異世界はまだ発見されたばかり。当然ながら、専門家は存在しない。そこで編集の大方針となるのが、異世界への渡航が許されている江留さんの採集。実例主義で制作を進めていく」 「ええっ!」  社長は大声を上げた僕を咎めることなく、ニヤリと笑いかけた。驚くのも無理はない、ということだ。  「異世界条約」には領有の禁止などの原則はすでに掲げられているが、未整備の部分も多い。探査における利益配分などの面で各国が牽制しあっている格好だ。  現状では、国連によって結成された使節団くらいしか渡航を許されていない。「異世界調査員」の資格は、世界で最も入手しにくいともいわれている。 「ある程度の項目が溜まったところで、webでの公開。その段階から出版に向けた作業も開始する予定だ。それまでは、ひたすらに『語彙採集』と『語釈』の作成といったところか」 「あの、具体的な選定の基準は……」 「前例のない作業だ。項目の選定や進め方も含め、若いものに任せるよ。修正は後でいくらでもできる。進捗さえ報告してくれればいい」  社長は「あとは江留くんに任せる」と言い残し、さっさと退出してしまった。
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