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◆春の嵐
春休みの間、いくつかのレッスンをこなし、最後のほうで小さい仕事が入った。例のファッションコーデくまくらの広告モデルだった。
どうやら夏に向けたコーディネートの提案ということで、ティーン向けのコーデを私が、それ以外にヤングミセス向けやマタニティなどの提案もするとのことだった。
久しぶりに北崎マネージャーさんと会った。
「沙耶ちゃん、ご無沙汰。元気にしてた?」
「はい。おかげさまで。早緒莉さんもお元気そうですね」
「もう、いそがしくていやんなっちゃうわ。それより、もう3年生よね?この先の進路どうするか決めた?」
「いえ、まだちょっと悩んでます」
「そう。でもあなたなら、最悪このままモデルでもやっていけそうだけどね。その時は事務所に言ってね。こちらの体制も変えるから」
「はい。ありがとうございます。ところで、ユリさんは元気ですか?」
「あ、ああ、ユーリね、うん、元気よ」
なんとなく不自然な返事のように思えたけど・・・でも、ちゃんとユリさんはメッセくれてるし、大丈夫よね。そう思うことにした。
撮影は順調に進み、私の分は全部終わった。
片づけをしているところで、ヤングミセスの分も終わったらしく、そのモデルさんが控室の方に返ってきた。
「お疲れさまー」
「はーい。お疲れ様―」
当たりの柔らかい、優しそうな人だった。
「あ、貴女って、昨年末のSSSコレクションでオープニングアクトやってた娘よね?確か・・・」
「あ、はい。小林沙耶と言います」
「私は日比野弥生。同じ事務所よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「あのオープニングアクト、可愛かったわ。いっぺんでファンになっちゃった」
「あ、ありがとうございます」
「あそこに出てた人たちってみんなウチの事務所よね?」
「そうです」
「確か、あの男の子、やめちゃったのよね。もったいないわ、かっこよかったのに」
「はぁ」
高杉さんのことだ。辞めたことになってるんだ。確か北崎さんの話では、私の件でやめさせたと聞いたけど。
「ああ、それと、一緒に出てた高城さん、こないだ移籍するって噂を聞いちゃったけど、あなた何か知ってる?」
「え?そうなんですか?」
びっくりした。
ユリさん、そんなこと一言も言ってない・・・でも北崎さんのさっきの態度・・・何かあるんじゃないかと思ったけど、そういうことなの?
「そう、知らないみたいね。噂では、ほかの事務所から引き抜きがあったとか・・・」
「はい、はい。あなた達、根も葉もないうわさ話に花を咲かせてないで、やることやって頂戴?」
突然後ろから北崎さんが声をかけてきた・・・いつのまに後ろにいたんだろう?
日比野さんはテヘっと舌を出して、そそくさと着替えを始めた。どうやら、このあとも彼女はマタニティパートのモデルをやるらしく、仕込みの為の着替えに戻ってきただけだったらしい。そりゃ怒られるわよね・・・
もやもやした気持ちを抱えながら、家路についた。
「ユリさん・・・移籍って・・・どうなるんだろう」
私は移籍の結果、何が起こるかまったく想像つかなくて、一つのところにぐるぐる回るだけの思考にとらわれていた。
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