◆春の嵐

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2日目の撮影は若干の曇り空。 それでも水平線のところは雲が切れていて、日の出とともにが日光が私たちを照らした。赤い朝焼けの色が薄く空を覆った雲に当たって、東側半分が真っ赤に染まって行った。 私たちは昨日と違うサマードレスを着て、日光に向かって立ったり、座ったり、横を向いて微笑んだりと、3姉妹をぞんぶんに演じた。 みんな赤いドレスを着ているようだった。日が昇り、雲の中に入り始めたところで撮影は終了。早めの終了だったが、十分に撮影はできたようだった。 「はーい、今回の撮影はこれで終了でーす。皆様お疲れさまでした」 北崎さんが私たち3人にこの後の予定を説明しにきた。飛行機まで少し時間があるので、日南海岸付近の観光に行けるとのこと。 私たちはそろって「行きたい」と言った。 そのまま3姉妹設定で行けそうなくらい、観光地では3人で仲良く楽しんだ。モアイ像の横で、3人ならんで写真を撮った。 鵜(う)戸(ど)神宮で一緒に運玉投げをした。 ユリさんだけが、上手に亀石の中にひとつだけ入れることができた。 「ユリさん、願い事かなうねー」 私は少し悲しくなった。それでも泣きそうになるのを堪えながら、自分の運玉を投げた。私のはあえなく手前に落ちていった。 帰りの飛行機にもユリさんは乗らなかった。それが何を意味するのか、察しはついた。北崎さんは「次の仕事があるので直接行くのよ」とだけ言った。 私はとにかく、家まで手紙を開けないように、じっと我慢していた。 家に着いたとたん、私は自分の部屋に駆け込んだ。ユリさんの手紙。とにかく、読みたい。何が書いてあるのか、私たちはどうなるのか、それが知りたかった。 可愛らしい封筒に封蝋(ふうろう)までしてある。 大事な手紙だというのがそれだけで十分伝わった。 私はじれったくなるのを我慢しながら、大事にその封蝋を壊さないようにペーパーナイフでマチの部分を切り開いて行った。 手紙は手書きで、紫のインクでしたためてあった。              ◇ 【沙耶ちゃん。貴女がこれを読むとき、私はすでに日本を旅立つために飛行場にいる頃です。今まで本当にありがとう。 貴女がいてくれたから、私はこうして次のステップに進むことができます。 私は今までモデルとして日本国内で活躍してきました。でも、以前言ったように、本当は女優になりたいのです。そして、夢はハリウッドの映画に出ることです。 ちょうど今年の3月にあちらでオーディションがありました。貴女とお出かけした次の週でした。私は満を持してオーディションを受けました。 そして、本来希望した役ではなかったのですが、別の役をいただき、出ることが決まったのです。私は私の夢を実現するために、アメリカに渡ります。 沙耶ちゃんと出会えて、本当に良かった。沙耶ちゃんと出会った時、私はちょうどスランプでした。 TGCで有名になり、追っかけに追われるようになり、本格的にモデルやグラビアの仕事ばかりになり、それでも女優の夢を捨てきれず、悶々としていた時に貴女がオーディションに来たのです。 カメラの前できらきら輝く私を見て、モデルを目指したと言ってくれましたね。それが私の背中を押しました。そして、私を愛してくれましたね。それが、私の心の充足と、先へと進むエネルギーになりました。 私は夢を掴むためにアメリカに移住します。数年という単位で日本には帰ってこれない、帰らない覚悟で行ってきます。 どうか、どうか沙耶ちゃんも、夢を捨てずに頑張ってください。 私のことは忘れてください。ただ、自分の夢を追うために、貴女を利用した悪い女だと、忘れてください。それが、私が異国の地で頑張るために、貴女に望む唯一のお願いです。 私は、日本での私のすべてを捨てるつもりです。貴女も、貴女の夢の為に、私のことは忘れて、夢に向かって進んでください、 貴女の活躍を楽しみにしています。 高樹優里】               ◇ 何度も、なんどもなんどもなんども読み返した。 何度も読み返すうちに、手紙を持つ手に涙が落ちた。 とめどなく、落ちた。手紙を持つ手が震えた。 「ユリさん・・・最後に・・・好きって言ってくれなかった・・・ でも、わたし・・・忘れないわ・・・忘れるもんですか・・・ 絶対に・・・忘れてなんかやるもんか・・・・・」 ただ、時計の針の動く音が、コチ・コチと響いていた。
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