◆プロローグ

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◆プロローグ

◆プロローグ 私がモデルにあこがれるようになったのは、中学の時。それ以来気がついたらヴォーグやELLEの中のきらびやかな女性たちが眩しくて、美しくて、神々しくて、私も一緒にスポットライトの中で歩きたいと思った。いつしか、歩き方や立ち居振る舞いに気を配ったり、食べるものもできるだけ健康的な、太らないものを選んで食べたりした。とにかく、体を作らないといけないと思って、モデルのインタビューを読み漁り、どんな生活をしているか、ヒントを探して、自分もそうなろうと努力するのが普通になっていた。 「沙耶(さや)さん、小林(こばやし)沙耶(さや)さん?」 「は、はい・・・」 私を呼ぶ声に、顔を上げた。 「ドアを出て、正面のドアから、中に入ってください」 私は、とあるモデル事務所の面接に来ていた。 部屋の中には私を含めて、7人くらいの人が座っている。みんな、神妙な面持ちで、自分の番を待っていた。男性が2人、女性が私を含めて5人。すでに3人ほどが面接を終えて、戻ってきていた。私は4番目。すっと立って、ドアを出て、向かいのドアをノックした。中から「どうぞ」という声がして、「失礼します」と言って中に入った。 「小林沙耶。高校2年です。よろしくお願いします」 「沙耶さんね、そこの椅子に座ってください」 面接官は3人、正面にメガネをかけた初老の紳士っぽい人、右隣にやり手のキャリアウーマン然とした女性、紺のスーツで腰かけた姿がすっと背筋が伸びて気持ちいい。左隣にはちょっともっさりした感じのニットにぼわっとふくらんだ髪の女性がいて、臙脂(えんじ)色(いろ)の太いふちのメガネが表情を見難くしている。 「さて、まずはモデルになりたいと思ったきっかけを教えてください」 真ん中の紳士が言った・ 「はい。私は中学の時に両親と旅行に行った沖縄の海で、モデルさんの撮影会を見かけたことがあるんです。その時に見たモデルさんの美しさに感動したのがきっかけです」 「その時のモデルさんが誰か覚えてますか?」 「その時はわかりませんでしたが、のちに高城(たかじょう)ユリさんとわかりました」 「ほぉ、うちのモデルですね?」 「はい。それがこちらの事務所を選んだ理由です」 「わかりました。では、ちょっと立って、後ろにある線の上を端から歩いてみてください。」 立ち上がって後ろを見ると、床に白いテープで線が引いてある。私は、家で練習していたように、線の上を、モデル気どりですっすっと歩いた。 「はい。では真ん中でくるっとターンしてみてください。」 私は言われるままにターンをした。 「はい。こちらを向いて、おでこを見せてください」 私は「?」と思いながら、目元までかかっている前髪を両手で上にあげておでこを見せた。 「はい。ありがとうございました。椅子に戻ってください」 そう言うと、真ん中の紳士がもっさりした女性のほうを見て、「何かある?」と聞いた。もっさりした女性は、それを受けて私に質問をしてきた。 「さきほどお話していただいた、沖縄での撮影会で、どこに感動したんですか?」 「はい。モデルさんご本人の美しさもそうなんですが、撮影を待っている間の立ち居振る舞いのきれいなところがまず印象に残りました。そして、何よりも、撮影の段になって、カメラの前に立った瞬間に、まるで体全体が光り輝いたように見えたんです。沖縄の太陽の輝きを打ち消すくらいに思えました。おかしいですよね、人間が輝くなんてあり得ないんですけど、私にはそう見えたんです。本当にきれいでした・・・その時に、私もこうなりたい、と強く思いました」 横の紳士が「ほぉ」と静かに声をあげた。 「わかりました」 もっさりした女性はそう言って、手元の紙に何か書き込んだ。 「ところでご両親はモデルになることを反対なされなかったんですか?」 右端のキャリアウーマンが聞いた。 「はい。両親共に、賛成こそしませんでしたが、挑戦だと思って頑張りなさい、と応援してくれました。もちろん、高校はちゃんと卒業することを条件にされました」 「学校は休むことができますか?」 「はい。担任にも相談してあります。多少は大目に見ると言ってくれました」 そのあと、学校のこととか、友人のこととかを少し聞かれ、面接は終わった。 「ありがとうございました」 そう言って立ち上がり、部屋を出ようとしたときに、もっさりした女性が後ろから声をかけて来た。 「沙耶さん、背中にごみが付いているわ」 私は「?」と思ったけど、あとでとればいいやと思い、「ありがとうございます」と言ってそのまま部屋を出た・・・・
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