◆お鍋とお酒と甘いキス

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◆お鍋とお酒と甘いキス

それからの事は、実のところあんまり覚えていない。 確か、ユリさんが、その夜には仕事があるということで、涙で崩れてしまったお化粧をとりあえず手早くとって、後片付けをして、ええと、私は確か色付きリップだけつけて帰ろうとしたら、ユリさんがリップを1本くれた。それを付けてねって言われて、またキスして。 ええと、あ、そうだ、SNSのID交換したのと、住所を教えてくれたっけ。 アパートはマネージャーさんとシェアハウスだって言ってた。 ユリさんからはその日の夜にメッセージが来た。 メッセージのタイトルを見ただけで胸がドキドキした。 恋ってこういうものなのかな?なんだか私が私じゃないみたいに思えた。 送ってくれたメッセージを、繰り返し繰り返し読んでみる。普通におやすみなさい、みたいな挨拶なのに、最後のハートマークが意味深で、なんどもなんども見つめては幸せな気分になる。気がつくとそれだけで1時間たってしまっていた。                 マネージャーさんから水曜のお昼休みに連絡が来た。マネージャーさんは私たちの教育係も兼ねているので、時々レッスンの時間とか場所の情報をもらっているけど会ったことはない。ユリさんとシェアハウスしてるんだよね・・・なんだかちょっと複雑な気分になった。 【今週土曜に、イベント会場の下見があるので、午前10:00に事務所に来てください。服装は奇抜でなければ自由。】 服装規定は、時々書いてある。 というのも、デザイナーの人とか、事務所の偉い人とかに会うのに、逆に気合の入った服を着てくる人がいたので、いれるようにしたらしい。 モデル業界ならでは、といった感じなのかな。 私は、再来週に迫ったイベントに向けていろいろ動き出したのが楽しくて、にやついていたところを、目ざとく杏美香に見られて、からかわれた。 「沙耶ー、なんかいいことあったのぉぉぉ?」 「え?ううん、別に?」 「それにしては、さっきから携帯見てにやーってしてたよぉ?彼氏でもできたかなぁ?」 一瞬、ユリさんの顔が脳裏によぎってどきどきした。それを隠すように、慌てて言った。 「あ、ううん、あのね、えっと、再来週に、モデルとしてイベントに出れるかもしれない・・・」 すると、杏美香は目をまん丸くして 「ええー!すごいじゃない?ね、どこでやるの?絶対見に行く!教えてー」 「あ、あの、まだ内緒なんで、声小さく・・・」 「あ、ごめーん・・・でも、すごいじゃない?」 「うん、ここのところ、そのレッスンとかで土日は全部埋まってるのは、そのせいなの」 「あー、それでこないだも一緒に買い物行こうって言っても、予定あるって断ってたのね?」 「うん、そういうこと」 うまくごまかせたかな・・・でも、イベントの事、内緒にしてようと思ったけど、言っちゃった・・・このイベントって誰でも入れるのかな?あとでマネージャーさんに聞いてみよう。 そんなことを思いながらお弁当箱を片付けていたら、携帯にメッセージ着信があった。 【ユリです】 あ、ユリさんだ♪ 【金曜の夜って時間ない?うちに来て一緒に夕食食べようよ。】 うわぁぁぁ!ユリさんから食事のお誘い! しかも自宅にお呼ばれ!?これは行くしかない! あ、でもお母さんになんて言おう・・・事務所の先輩? 確かにそうだけど・・・ 私はなんとなく後ろめたさを感じて、ほんとのことを言わないほうが良いと思った。 「杏美香!今度の金曜、杏美香の家で夜ご飯ってことにしてくれない?」 「なぁに?突然・・・」 「一生のお願い!私、どうしても行きたいところができたの!」 「沙耶がそんなこと言うの珍しいね。うん、めったにないことだから、口裏合わせてあげてもいいけど・・・もしかして、ほんとに彼氏できたの?」 「う、ううん、違うの。事務所のマネージャーさんが、夕食に誘ってくれたんだけど、うちの母親ってあんまりモデルの仕事関係で夜に出歩くのは快く思ってないから」 とっさにそんな嘘をついた。 「うーん、まあ、良いでしょ。分かったわ。その代わり、イベントの事、分かったら教えてね?」 「うん、約束する。ありがとう!」 そう言った私の心は、すでにユリさんのことでいっぱいになっていた・・・
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