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気が付けば陸上競技場に来てしまうって、どれだけ世界が狭いんだろう。 我ながら呆れる。 …どれだけ私の世界は、陸上に彩られてきたんだろう。 ピットにあまりにも近づくのは、まだ辛い気がして、スタンドに上がり、ピットを上から眺めることにした。 誰か練習してる…。 その誰かはすぐに分かった。 同じ陸部の誠也だ。 同学年の誠也も幅跳びの選手で、県大会に出場する。 いつから練習しているのだろう。 夕方になりつつあるとは言え、今日も暑さは厳しかったのに。 誠也の助走、誠也の踏み切り、誠也の跳躍。 どうやったらあんなに跳べるのだろうといつも羨ましかった。 地区大会の時もこうしてスタンドから眺めていたし、県大会を決めた時も単純に嬉しかった。 私も…県大会、行きたかったな。 また悔しさや淋しさが湧き上がる。 誠也がふとスタンドを見上げ、私に気が付いた。 「どーしたの?」 いつものように少しのんびりした口調で尋ねてくる。 「うん。ちょっと散歩。」 散歩って…何だよ。 心の中で自分にツッコミを入れる。 「県大会に向けて自主練? 熱心だね。」 ちょっと嫌味な言い方にならなかったか、言ってしまってから内心焦る。 「いや……そんなんでもない。」 誠也は苦笑したように見えた。 やっぱり私の言い方、僻みっぽく聞こえたかな…。 心がざらざらしていると、うまく言葉が出てこないのがもどかしい。 「楽しいを感じるために跳んでただけ。 真面目に県大会のために練習してた方が、本当はいいんだろうけど。」 誠也はバツが悪そうにそう続けた。
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