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「よく……わかるね。」
私は誠也に短く投げかける。
「スタンドで見てたから。
ノッてる時のお前の跳躍、結構好きなんだよね、俺。
ま、参考にもなるしね。」
誠也がさらっとそんなことを言う。
「結果のことばかりに気を取られるとさ…。
跳ぶのが好きだとか、楽しいとか、そんな単純なこと、忘れがちになるからさ。
……でも、忘れたくないから、時々、なーんも考えないで、ただ純粋に楽しいって感じるだけの状態で跳びたくなるんだ。
今日もそんな感じ。」
いつのまにか夕暮れで、空が金色に染まっている。
この金色の空みたいにピカピカしていて、でも何だか優しくて、満たされるような……。
誠也の幅跳びへの想いって、そんなものなんじゃないかなーと勝手に思う。
「県大会、楽しんでね。
たくさん、応援するから。
スタンドから見てるから。」
私の好きな助走や踏み切りや跳躍を見せてほしい。
「うん。ありがとな。」
誠也はニカッと笑う。
「……高校でも陸上続ける?」
誠也に聞かれて答えに詰まる。
誠也は私の答えを待たずに続ける。
「そしたら、学校違っても、大会で会えるよな。」
…私も会いたいな。
誠也の跳ぶところ、これからも見たい。
「……高校では、誠也みたいに、楽しんで跳べるようになりたいな。」
もしも、また、大事なものを見失ってしまったら、誠也に教えてもらおう。
跳ぶことが好きな気持ち。
楽しむ気持ち。
地区大会は終わってしまったけど、私が終わったわけじゃない。
とりあえず、明日にでも誠也を真似して、楽しいを感じるためだけにピットに立とう。
その時には、私の心ももしかしたら、ピカピカの金色の空みたいになれるかもしれない。
fin
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