夜の星

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その様子を見ていた史恵さんはニッコリ笑いながら何故かポロポロと涙を落とした。 何かおかしな事言ったのかしら。 和夫は何時も来て二時間もいないで帰っていく。そう言えば、小さな頃から学校の先生に落ち着きがないって言われた記憶がある。 此処に入居してからどれ位時間が経過したのだろう。一人になった百合子は窓の外を見る。息子達全員に遺産を残してあげたかったが売却した土地と建物のお金は老人ホームの入居金になってしまったらしい。まあ、子供達の世話にならないだけ良かったのかもしれない。 そうしてそれは、何月の事だろう。老人ホームの中はエアコンが効いているので季節の感覚が解らない。外の景色を見た限りでは、夏の暑い時期だった様な気がする。お昼ご飯が大好きなサバの味噌煮の時であった。左手を使ってお箸でサバを持ち上げようとした時、例の眩暈に襲われた。ああ。今度はこそ天国からお迎えが来たんだな。と思った。 妙に明るい視界が開けた。目を細めて辺りを見ると、目の前には神様とも仏様とも思える人が座っている。百合子は自然とその前に行き手を合わせた。 「斎藤百合子さん、約九十年間、お疲れ様でした。これから貴女は本当にこの世の中から消滅します。最後に何か望みがありますか?」 「望みですか?」 「はい。人間を消滅させる前に何か一つ望みを叶えてあげるようにしているんです。まあ私が判断して、ダメな望みは叶えられませんが」
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