夜の星

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史恵さんと出会ったのはもっと後になってからだろうか。フワフワと空中に浮かびながら、大谷ハイツの前にいると、夕方の六時になって和夫がアパートから出てきた。何処に行くのだろう。和夫は先ほど来た道を少し戻って、赤い暖簾の定食屋さんに入っていった。 「いらっしゃい。斎藤さん、今日も暑かったですね」 可愛らしい女性の声が聞こえた。声の主を見ると史恵さんだ。まだ若い。色白で華奢な身体は昔からの様だ。 「暑かったよ。まるでサウナみたいだ。ビールと枝豆頂戴。史恵ちゃんは今日は昼間の仕事もう終わったの?」 「はい。今日は残業無しでした。それなので何時もより早くアルバイトに来たんです」 「新しい、スーパーの図面書いているって言っていたよね。じゃあ捗っているんだね」 「はい。設計変更があまり無いので早く終わりそうです」 話の様子だと史恵さんは図面を書く仕事と定食屋さんと二つ掛け持ちで仕事をしているらしい。ここで和夫と知り合ったのかな。和夫はゴクゴクっとビールを飲み干すと、 「焼酎飲もうかな。ボトルまだあった?」 と史恵さんに聞いた。 「まだ沢山ありますよ。いつものウーロン茶割でいいですか?」 「うん。暑いから喉が渇いてしょうがないよ」 「お酒は逆に脱水症状おこしちゃうって言いますから、飲み過ぎないでくださいね」 史恵さんはそう言うと、カウンターの後ろにある棚から透明な焼酎のボトルを取って和夫の前に置いた。和夫は自分でウーロン茶割を作ろうと腕まくりをする。 桜模様の入れ墨が見えた。 ああ。そうか。暴力団に入った時に彫ったんだな。 百合子は悲しくなった。辛い思いや寂しい思いをさせて育てた訳ではないのに・・・
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