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あの日、占い師の老婆は言っていた。
「アタシは病院の医療ミスで、孫を失っていてねぇ。まだ幼稚園に入ったばかりの幼い孫をね」
「──そうなんですか」
「命短し恋せよ乙女とはよく言ったもんだ。人間、いつ死んじまうかわかりゃしない」
病室のベッドの上で、眠ったように瞳を閉じる蒼汰の姿を思い出した。
「人生は長いと勘違いして、無駄にしちまってる時間が多い。命を有難がって生きてる人間なんて、そういないもんさ。だから、100秒。その100秒にすべての想いを注ぎ、大切な人との時間を愛おしく感じてもらうのが、アタシの役目さ」
あかりは大きく頷く。
「今から一週間後のその日は、『黄泉の虹』って呼ばれる、死者の魂が大切な人のところに帰ってくる日なのさ」
「そうなんですね……」
「大切な人との時間。楽しんでおいで」
母のような深い優しさに、思わず胸が熱くなった。それだけ言い残すと、老婆は元の怪しい占い師の表情に戻り、邪魔者を追い払う仕草であかりに別れを告げた。
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