100 Seconds

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「お嬢さん。悲しい出来事でもあったようだねぇ」  あの日からあかりの心はこの世界にはない。まるで去年の日めくりカレンダーをめくるように、意味のない毎日を過ごした。仕事帰りにコンビニでアルコールを買うのが日課になり、帰宅途中にそれを飲み干した。  商店街のアーケードを抜けたところで、その声に呼び止められた。視線を移すと、街頭占いの老婆が、怪しい笑みを浮かべながら手招きしている。 「大切な人に会いたいかい?」 「え?」  鬱屈した気持ちを真正面から射抜かれたようで、心臓が収縮した。 「アンタ、大切な人を亡くしたんだろ?」 「なんでわかるんですか?」 「そりゃあ、占い師だからさ」  あかりは衝動を抑えきれず、「亡くなった彼に会いたいです」と口走っていた。 「会わせてやろう」  そう言うと老婆は、足元から白く濁った水晶玉を取り出し、優しくそれを撫でながら何かを唱えはじめた。 「今から一週間後の午前十時。S駅の南側の踏切の前に立ってみな。そこに彼が現れる」 「そんなことあるわけが──」 「疑うなら行かなきゃいいだけさ。ただし、彼に会えるのは100秒だけだからね。それでもいいなら、行っておいで」  あかりは大きく唾を飲み込んだ。
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