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「えっ?」
踏切の向こうで蒼汰が手を振る。
──なんで、まだいるの?
遮断機が上がると、彼は頭を掻きながら、小走りであかりのもとに戻ってきた。
「なんで?」
「なんかさぁ、あっちの世界に戻るためのシステムが故障しちゃったらしい」
「故障?」
「復旧時期は未定らしいんだ」
寂しさと孤独で強張った身体がほぐされる。拍子抜けしたあかりは、大声で笑った。
「じゃあ──」
「それまではこっちの世界にいられるみたい」
どういう状況なのか理解はできていない。でも、もうちょっとだけ蒼汰とは一緒にいられるみたいだ。あかりは蒼汰に抱きついた。
再びその胸に顔を埋める。さっきの涙で湿った蒼汰の服。
「何回泣かせば気が済むんだよ──バカッ」
「ごめん」
蒼汰はあかりの髪を撫でる。
「時間はまだあるみたいだし」
「いっぱいキスしたい」
「そうだな」
「最低でも100回ッ」
目をつむったまま、少し背伸びする。蒼汰の唇があかりに触れる。あかりは心の中で──1回目──と呟く。再び踏切の警報音が鳴り、轟音とともに電車が通過した。
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