漂泊の隔離船

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 もう10年も前のことになる。  私は東方へ2000キロ離れた瘴気と魔力素溢れる地、オリアンへ取材旅行に赴いた。女の一人旅だったが、運に恵まれて取材は順調そのもので、資料の収集は大変捗った。半年に渡って各地を巡り、幾ばくかの寂しさとそれ以上の満足感を持って帰りの船に乗った。  船の名は「センチュリオン号」 小型の蒸気機関を搭載した機帆船で、外国風の勇ましい名前に反して少女のように小さく可憐な船だった。乗員は船長以下10名、乗客は私を含めて12名。  航海中、私は船長と航海長の二人と仲良くなった。船長は私が作家だと聞くと、「先生」と呼んでくれるようになった。しかし、一般の船員たちはまったく酷いものだった。オリアン地方で新規徴募したという8人の水夫たちは、常に狡そうな目つきを辺りに配っていた。職務に関しても熱心とは言い難く、至極大儀そうに甲板勤務をしていた。  見かねた私の苦言に、船長はやや眉を下げて答えた。「実はオリアンで停泊中、もともとの船員の大半が風土病に罹患してしまってね。それでも運航を遅らせるわけにはいかないから、現地の口入屋に依頼して臨時の船員を雇ったんだよ。オスティアに帰ったら彼らにはすぐにこの船を降りてもらうつもりだ……」
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