ある日の一日

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ある日の一日

 寂れた小さな公園で二人の男女が隣合って座っていた。この二人の他には猫一匹もおらず、まるでそこだけ時が止まっているかのような空間だった。 「ねぇ、もし僕がこの日を迎えるのが100回目だって言ったら信じる?」  長い前髪を耳にかけた茶髪の少年は、琥珀色の透き通った瞳で隣にいる、濡れ羽色の長い髪の少女の黒曜石のような瞳を見つめ、そう言った。  黒髪の少女は突然の少年の問いかけに不思議そうに首を傾げ、目を丸くした。少女の宝石のような瞳が少年を映す。 「もし、この日が100回目だったら? どうしてそんなこと聞くの?」 「例えばの話だよ。昨日小説でタイムループの話を読んだからちょっと気になってさ」 「全くもう、直ぐそうやって影響を受けるんだから」  若干呆れたように口を尖らせながらも、少女は律儀に質問に答える。 「君はきっとつまらない冗談は言わないだろうからもしこの日を繰り返しているなら何か理由があると思うの。だから……信じるかな」  少年は驚いたように目を見開く。二、三度瞬きをし、少年は黒髪の少女に問いかけた。 「どうして、そんなに僕を信用できるの?」 「逆に聞くけど、どうして君を疑わなくちゃいけないのよ」  平然と言う少女に少年は唖然とする。だが、少しすると嬉しそうに顔を綻ばせた。 「ところで、その例え話では君がループしている理由はあるの?」 「え、うーん……実はこの日、僕の大事な人がいなくなっちゃうんだ」 「ふーん、それは大変ね。それで?」 「だからその運命を回避したくて同じ日を繰り返している……って言うのでどうかな?」 「ありがちな話ね。まあ、嫌いじゃないわ」  淡々と話す少女に少年は苦笑いを浮かべ、頬をかいた。 「でも100回も繰り返しているなら、きっと運命は変わらないんじゃないかしら」 「身も蓋もないこと言わないでよ……」 「どうせ待ち受けているのは抗いようのないバッドエンドよ」 「相変わらず悲観的なんだから……。もしかしたらどうにかできるかもしれないじゃん」 「無理よ」  ぴしゃりと言い放つ少女に少年は軽く落ち込んだ様子だった。少しいじけたように少年は口を開く。 「じゃあ、君が誰かを助けるためにループをして、助けられないと分かってもそれを受け入れられる?」 「無理ね」 「それならループを続ける?」 「……嫌よ。何度も辛い思いなんてしたくないわ」 「じゃあどうするのさ?」 「……私が身代わりになる、とか」  少年は更に落ち込んだようだった。目を伏せて考え込むようにした後、もう一度少女を見る。 「誰かが君の身代わりになるって言ったらどうする?」 「殴りつけるわね」 「自分は身代わりになるくせに、理不尽だ……」 「私のために死なれるとか勘弁して欲しいわ。そんなの一番嫌よ」 「じゃあ……その誰かに見殺しにされてもいいの?」 「勝手に死なれるくらいなら、私が死んだ方がマシだからね。その方がいいわ」 「……そっか」  気づけば日は沈み始め、辺りは暗くなっていた。二人しかいない寂れた公園は、不気味さを増し、どこか不穏な雰囲気が醸し出されていた。 「そろそろ帰った方がいいんじゃないかしら?」  少女は少年を見て、問いかける。少し哀しそうな顔をした少年は首を振った。 「もう少しだけ、一緒に居ようよ」 「……仕方ないわね」  いつもは少女の言うことに従う少年が初めて否定した。少女は少年を見つめ、何かを感じたかのようだった。  徐々にその役目を終えようとしている太陽がある地平線を眺める少女は、思い出したように少年に話しかける。 「そういえば、私今朝大事な人が亡くなる夢を見たの。……悪夢だったわ」 「え、そうだったの?」 「ええ。だから思ったのだけれど、大事な人が死ぬくらいなら私が代わりになりたい」 「……それは僕にも分かるけどさ」  日は完全に沈み、街は途端に宵闇に包まれる。少女は深い溜息を零すと、少年の方を見た。 「そろそろ帰らないと、親が心配するわよ」 「そう、だね」 「こんな時間まで付き合わせて悪かったわね。でも、楽しかった」 「……ううん、僕が誘ったんだし。頼みを聞いてくれてありがとう」 「そう。じゃあ、またね」 「うん。……またね」  少女は急勾配な階段を降りようとして、足を踏み外した。少年は助けようとしなかった。ただ哀しそうな目で落ちていく少女を見つめていた。
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