赤くて、茶色くて、黒い。

10/44
前へ
/377ページ
次へ
 先週末、大学時代の仲間と飲んだ時に、『仕事だるい』『先輩ウザい』等と愚痴る、新社会人として働く彼らが凄く羨ましく、何もしていない自分が恥ずかしくなった。  『俺は芸能事務所に入っている。俺だってちゃんと社会人だ』と自分をニートと認めずに、みんなと同等である事を装って、『へぇー』なんて相槌を打ちながらその場を過ごしたが、飲み会の帰り道は奥歯を噛みしめながら歩いた。  「こんな事なら……」  俺からふと零れた言葉に、蒼ちゃんが眉毛をピクっと動かし、目の色を曇らせた。だから続きを言うのを辞めた。  『こんな事なら、就職しておけば良かった』。  蒼ちゃんは売れっ子の脚本家。俺が言おうとしていた台詞など、お見通しだっただろう。 
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加