赤が、点る。

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 「違いますよ」  彼は、出版社の人でもないらしい。  「……あの、今日はどんな用件で? バイトでもないとすると、ウチの社員に用事ですか? お客様が来る事を存じ上げておりませんで、申し訳ありません」  「佐波野ミソノさんに用事です。さっき言ったじゃないですか。俺の代わりにシナリオを書いて欲しいって」  全く噛み合わない、蒼汰似の男子と私の話。もどかしい以上に、何故か自分の秘密が目の前の男の子に握られてしまっている事が、恥ずかしい以前に気持ち悪くて、怖い。  ここは平和な日本の中でも更に平穏な地方。大きな事件など起こった事がないため、事務所のセキュリティーは甘い。誰でも簡単に出入り出来てしまう会社の緩さを今になって恨む。  この男の子の目的は、ズバリ金だろう。見るからに10歳以上年上であろう私の身体である訳がない。  『金庫の暗証番号を言え』などと刃物を突き付けられながら脅されたらどうしよう。まぁ、金庫の中には小口現金しか入ってないから、いざとなったら言ってしまおう。でも、『現金これだけかよ‼』って暴れられたら終わりだ。  「……あなた、誰なんですか?」  死ぬ前に、目の前の男が何者なのか知っておこうと、前置きや探りを辞めた。
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