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「おや、さらに驚かせてしまったようですね。申し訳ありません。」
男の人が腰を折ってお辞儀する。
本当に執事みたいな人だと思った。
「これでも、私は先ほどまであなたとお話ししていた本なのですよ。口調に違いはあり、外見にも本でいた時とはイメージの違うものがあると思いますが、変わったのは見た目と話し方だけです。記憶も性格もそっくりそのままと思ってください。」
にこやかに微笑む様子を見ていると、性格が同じとは思えない。
「ちなみに私はあなたのつきそいと言うことになっています。あなたのお母様が、自分が死んだとき話したり浮かんだり人間に変身したりという能力を解除できるように設定してくださいました。それまでは魔法により、今まで使えていた能力が使えなくなったただの本だったのですが、こうしてもとに戻れたのはお母様とあなたのおかげです。」
「ちょっと待って!つきそいってどういうこと?」
「嫌なら構いませんが、あなたのそばにいて守ってあげて欲しいとお母様から頼まれていまして。もちろん、あなたがお断りになればすぐにでももとの本に戻りますよ。」
「あ、待って待って!お願いだからこのままでいてよ。お葬式の後で私が一人になりたいって言ってついさっき叔母さんが帰っちゃったばかりだから、お世話をしてくれる人がいないとなの。それに昔っから絵本でこういうの憧れてたんだ。私の執事っていうのはどう?」
「執事、でございますね。なるほど、かしこまりました。ではとりあえず、誓いをたてておきましょう。」
「えっ、誓い!」
「夢を壊すようですが、あなたが想像するほどロマンチックなものではありません。ただ、私があなたの執事になることを約束するだけですから。と言ってもこの誓いの効果はすごいものです。誓ったことは永遠に持続されるのです。つまり、何があっても私はあなたの執事という役目を外れることができないというわけです。」
「本当に……。」
「はい。では、早速誓いをしましょう。失礼ですがお名前は……。」
言われてから、まだ一度も名前を呼ばれていないことに気づいた。
「さくらよ。桜に楽しいって書いて桜楽。」
「なるほど、分かりました。」
男の人は淡々とした調子で、
「私は今後、桜楽様の執事になることを約束します。」
さらっと言った。
「えーっと……終わり?」
「そうですよ。」
明らかにがっかりした私の表情に、男の人が苦笑する。
「桜楽様が想像するほどロマンチックではないと言っておいたはずですが。」
「だってえ……。」
ほおをふくらます私。
男の人がプっとふきだした。
だって、想像とあまりに違いすぎるんだもん。
「では今日から、私はあなたの執事として、手となり足となり働かせていただきます。そうそう、言い忘れていました。私の名前は零木枯(ゼロこがらし)。シャルアンと呼んでいただいても構いません。本にはいつでも変身できますし、頼んでくだされば本の内容も変わります。本である間は空を飛ぶことができ、大きさも自由に変わることが可能です。人間の姿の間はそれができなくなりますが、変わりに体術が使えますから。私の体は魔法とあなたのお母様の力によって、全面的に桜楽様をお守りできるようにできています。」
「へえー、すごい。じゃあシャルアン、これから私の執事役よろしくね!」
「はい。あの、早速提案があるのですが……。」
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