今宵ひと晩、きみを

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◇◇◇ 「焔華。相変わらず君は、凄い食欲ですね……」  麺に乾麺麭、粥、と尋常でない量の朝食を食べたのち、食後の桃饅頭にとりかかっている焔華を、飛翠はあきれ顔で観察した。  神経のかぼそい者なら、普通あれだけひと晩じゅう丁寧に犯され尽くされたら翌朝は立ちあがれないか、熱でも出して寝込んでいる所だろう。 「痛い所などは、ないんですか」 「全身痛えに決まってんだろ! おまけに変な薬のせいでなんかまだあちこち痺れてるしよ!」  怒り心頭の返事が返ってくるが、失った体力を回復するためなのか、やたら必死に食事に取りかかっている。  やはり脳味噌が、腕力とか筋肉のことで手一杯らしい、と飛翠は結論づけ、目を伏せた。  ――良かった。もう一言も口を聞いてくれないかと思いましたよ。  飛翠は暖かい茉莉茶の入った椀を手の中で揺らしながら、鼻の眼鏡を上げ、再び焔華を見つめる。  櫛など入れたこともないぼさぼさの緋色の頭。風呂に入ることも稀なのだろう、この雲上に戻ってきたときはいつも同じ絹の薄物を着ている。彼は炎天だからそんな格好でも風邪など引かないのだろうが、それでも仮にも“雲海の貴将”と讃えられる皇宮の至宝なのだから、もう少し見た目に気を遣っても悪いことはあるまい、と思う。
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