今宵ひと晩、きみを

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 そんな身分も頓着なくさっさと捨てて、己が尽くしたいと思った人物のためだけに、雲海を超えてどこへでも旅立つことができてしまう焔華の、その行動力というかやんちゃぶりというか無鉄砲さが、飛翠には羨ましい。  自分なら行動に出る前に、失うものと得るもの、どちらが多いかと損得を常に計算してしまっている。  精神的に大人であることは、同時に、精神的な醜さを身につけるということでもある。  飛翠が焔華の生き方を美しいと思うのは、彼が精神的に未熟なぶんだけ、純粋だからだ。 「ぼけっと見てないでてめーもさっさと食えってんだ。腹が減っちゃあ戦はできぬと云うだろ」 「そりゃ云いますけど……なにも、下界での戦争に今からそんなに備えなくったって」 「なに呑気なこと云ってやがる! これ食ったらすぐあっち側に戻んだぞ」 「は? 今すぐ渡るんですか。皇宮に残してきたやりっ放しの仕事とか、ここで今やってる研究とかは……」 「そんなもの放って行きやがれ。皇宮いちの学匠といったって、てめーが欠けてもまだ腐るほど頭の使える天人はいるんだ。皇宮のひとつやふたつは通常通り動く。だが向こう側は、すぐにでも戦力が必要なんだ」
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