今宵ひと晩、きみを

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「――その、……どうして俺を……、俺に、あんなこと……朱の軍に入るのが嫌だったなら、俺に無理な交換条件つけるより先に、門前払いすれば済むことだったじゃねえか。  俺がてめぇの云った条件を呑んだものだから、てめぇは引くに引けなくなってああいう事になったんじゃねえのか?」 「――焔華、それ、本気で云ってるんですか?」  飛翠は、焔華のあまりの鈍さに突っ伏したくなる。  あれだけ情熱的に抱いたのに、なぜ気づかない?  しかし気を取り直して、座りなおした。  比喩や婉曲表現は、この鈍感には通じないのだ。  はっきり云ってやるしかないだろう、と。 「焔華、まだ、分からないんですか? 私は雲の下の世界の物事などに興味は全くない。  けれど君が、私じゃなければだめだなどと云ってくれるから、私は首を突っ込むことに決めたんですよ。  雲の下でまで戦争を続けてる双皇子たちの行く末など、完璧にどうでもいいんです。  ――誰かのために生きてみろ、と昨夜きみは私に云いましたね。  私の場合は、それは皇子たちなんかじゃない。きみだ。――もうずっと前から、きみでした。  きみの存在こそが、私の生きる理由です」
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