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しばらく茫然と宙を仰いでいると、扉の開く音がして誰かが寝室に入ってきた。
その瑞々しい玲気は、目で見て確認するまでもなく、自分を凌した男のそれであった。
焔華にはその“気”が分かる。
「――目が醒めましたか? 焔華」
そう尋ねる玲瓏な声とともに、天蓋の薄幕がふわりと持ちあがる。
男の手に握られていた小さな燈籠の明りが、すっと紗幕の内側に入ってきて寝台を照らし出した。
黄色くほの暗い隠微な光によって、体液にまみれた下肢が、くっきりと曝け出されてしまう。
焔華はしかし身を庇うことも隠すこともなく、唇を噛みしめ、姿を現した凌辱者を睨んだ。
「…飛翠、てめぇ」
男は部屋着を肩に羽織り、長い水浅葱色の髪をゆったりと耳元でひとつに束ねていた。
一見、酷い振舞いをするような男には見えない。外見は、優男だ。
そして周囲からの評価も然り。彼は、天人族でも有数の識者として皇宮内で通っていた。
しかし、いつも沈着冷静であるはずのその瞳は、焔華の恥態を目に映す今、かすかに陶酔したような酩酊したような色味を帯びている。……自分が気を失っている間、征服の美酒に酔いしれてきたとでもいうのだろうか?
対する焔華の足下には、汚れた寝具が丸まっている。それを引き寄せて身をつくろい、飛翠の舐めるような視線を拒むこともできた。しかし焔華はそれをせず、気だるい体を引きずるようにして敷布の上に坐し、全裸の肩に雄々しい怒りを滲ませて、今宵を限りにただの友ではなくなってしまったその男を睨んだ。
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