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その日、ここ最近では珍しく、三山ハルカが話しかけてきた。
「新条さん、変わったよね」
「そ、そう……?」
褒められてるのか、それともこのあと罵倒が続くのか、分からなさすぎて私はドキドキ。
「うん。前はもっと、近付きにくい感じがしたよ。高嶺の花っていうか、女王様気質というか。でも今は――えいっ」
つんっ、と全身に走る激しい電流。
脇を突かれただけだと分かるも、まるで最も敏感な急所を的確に当てられたみたいに、体中がゾクゾクっと騒ぐ。
「あははー、今はどっちかっていうと、“うなぎ系美少女”って感じだよね」
「なにその“うなぎ系美少女”って!」
ニックネームを付けてもらっちゃった!
すごい、嬉しくて泣きそう!
「うそうそ、ごめんねからかったりして」
「別に、あだ名、いいんだけどな……」
私の声が小声で聞こえなかったのか、ハルカは続けて言った。
「そこで提案なんだけど、新条さんに勉強教えて欲しいんだよね」
この子 ミステリアス系?
“そこで” の意味が分からなさすぎて、胸が高鳴る……。
「何の勉強を、私に教えて欲しいというの……」
私は腕をもじもじ、眼を逸らしながら訊き返す。
ううん、一緒にする勉強が楽しそうだとか思ってないし、
勉強という名の別の何かが起こるだなんて、
そんなの、全然期待なんてしてないんだから……。
「普通に今度の模試対策だよー」
「へー、新条さんに勉強見てもらえるなんて、三山めっちゃラッキーじゃん」
クラスメイトの笹川が話に入ってくる。
野球部でもないのに、高校生にもなって丸刈り。
最近私は彼のことを陰ながらマルコメくんと呼んで、何のひねりもないのに一人で笑ったりしていた。
「新条さん、何か心変わりでもあったの?
もし勉強教えることで自分のためになるとか考えてるんだったら、ぜひ俺も参加させて欲しいな。全然対策してなくてさー」
私は打ち震え、首を振った。
「ご、ごめん、勉強会は女子相手とだけすることにしてるの」
「そっかー残念」
「そうだよ笹川! 新条さんだよ? 図々しいにもほどがある!」
「最近新条さん面白いし、いけると思ったんだけどなぁ」
ハルカだけでも大変なのだ。
勉強会というだけで、もしや相手が一生ものの親友になるのでは?
と一々ドキドキしている自分がいるのだ。
それが、男子も一緒とか――。
万が一にも、マルコメ君ごときを相手に、恋愛が発展するとか思ってない。
手を触れる機会があるかもとか、全然思ってない!
そうじゃなくて、私が対人関係において警戒しているのは、
まさにこの男子という存在だったのだ。
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