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周囲のがやがやした騒音が、痛く、苦しく、そして気持ちがいい。
あの悪魔が言ったことは本当だったのだ。
つまり、私がどうなってしまったかというと――。
見るもの、触れるもの何もかもが、未知の世界における初めての体験のごとく、一々興奮の嵐を呼び起こす心と体になってしまったのだ。
“感受性をリセットする”とあいつは言っていた。
その意味を今では痛いほどよく実感している。
「新条さん、大丈夫? 具合わるいって噂になってるけど……」
クラスメイトの三山ハルカが話しかけてくる。
私は興奮してしまう。
まず自分を心配して話しかけてくれる人がいるということに。
そして“噂”という言葉の響きが持つ怪しげな予感に。
ゾクゾクッ、と背筋を蛇が這いまわったかのごとく全身が震える。
人に接するって、こんなに興奮することだったんだ……。
え、エクスタスィ……。
身をよじって顔を赤らめている私に向けられる、怪訝そうな眼差し。
その視線だけで興奮する。こういう快楽もあるのだと気付かされる。
「その、よく分からないけど、天才・新条さんのことだもん。
きっと私なんかには分からないことがあるんだよね……。
あはは、授業はじまるし、私もう席戻るね……」
そう行って、去ってしまう。
近くにいて、話すことができた人がいなくなるというだけで、切なさが胸を締め付ける。
く、苦しい……
たった十数秒のやり取りだけで、こんなに息が乱れるだなんて……。
それからは地獄、否、天国だった。
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